夢を見た。白蘭が自分の前からいなくなってしまう夢を。目が覚めて、横を見るとまだ彼は眠っていて、安堵の息を漏らす。そして未だ荒れている自分の心臓を感じながら、ぎこちないまばたきを数回して考えた。
ーーでも、それは高い確率で現実的に起こり得ることだ。あまりにも近すぎるその夢は、わたしをひどく不安にした。ついこの間まではいないことが当たり前だったのに。それくらい彼はわたしの中で大きい存在になっているのだと気づかされて少し嫌になった。だって、この関係は永遠に続くことなんて、有り得ないのだから。もし、本当にその日が来た時、わたしは受け入れられるだろうか。答えは否。分かりきっている。辛くて、悔しくて、色んな感情が渦巻いて、じわり、世界が滲んだ。
 
「…最悪だ」
「何が?」
 
白蘭に背を向けるようにして寝返りを打ちながら呟くと同時に、二本の腕がわたしの首にぐるりと絡み付いた。
 
「起きてたんですか」
「ん、まあね。ところでさっきの質問に答えてよ」
「白蘭さんには関係ないことです」
「つれないなぁ」
 
腕が鬱陶しいということを示すために、自身の体を大きく揺さぶる。しかし腕はさらにしっかりと巻き付いてきて、挙げ句の果てに、肩に顎まで乗せられた。
 
「ちょっと、」
「うなされてたみたいだけど、大丈夫?」
「うなされてません、ていうか鬱陶しいので放してください」
「う・そ。僕の名前何回も呼んでたよ、白蘭、白蘭って。君の中じゃ、僕は呼び捨てなんだね。ふふ、ちょっと嫉妬したかも。で、どんな夢見てたの」
「だから!関係ないじゃないですかっ!」
 
夢の中ではあんなに叫んでも振り向いてすらくれなかった。しかし今はこんなに嫌がっても抱きしめてくれる。なぜが無性に腹が立った。ずるいと思った。全く関係がないのに。ああ、まだわたしは夢と現実をさまよっているのだ。どちらがほんとでどちらがいつわりなのか、わからない。とうとう涙が枕にシミを作り出す。
 
「大丈夫」
 
とんとんとん、白蘭の手がわたしの肩を一定のリズムで叩き、そして耳元では優しい声が何回もわたしの鼓膜を震わせる。
 
「大丈夫、僕はどこにも行かないよ」
 
ずるい、再びそう思った。最初から全部知っていたのだ。ずるい、ずるい、ずるい。そうやってその場しのぎでそんな言葉を簡単に吐く白蘭なんて嫌いだ。どうせ守れないくせに。
 
「だから大丈夫」
 
全然大丈夫なんかじゃないのに、不思議と心が安まっていく。大丈夫という気がしていく。ゆるゆると狭まっていく視界に白い羽が見えた気がした。

Kae-ru
(そうだ、彼は天界を通報された堕天使なのだ。
乙女ひとり惑わすのは容易いこと)


かにうお
 
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